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ケルビムの職人技が教えてくれた、自動運転の危うさ [危機管理]

NHKの番組で「凄ワザ!」という、番組が出した課題を、経験と勘の職人ワザのチームと、科学的、学術的に検証するチームとが対決するという番組が有ります。
本日なんとなく見ていましたら、今回の課題は自転車で、手放しおよび惰性で狭い幅のコースから脱落しないで50m走れる、安定した自転車をどちらが作れるかという対決内容で、先の「職人ワザ」チームは、我々自転車の世界では知らない人がいないという、有名なフレームビルダーの「ケルビム」を主宰する今野さんが出演されていてびっくりしました。

片や科学で解決するチームは、ジャイロを搭載してセンサーで車体の動きをセンシングして、電子制御で補正して姿勢を制御するというもので、番組冒頭では手放しで自立して立っている自転車が出来上がっていたので、当然こちらのチームの自転車の方が安定して50m走りきれるだろうと思わせました。
所が、結局はジオメトリーやフォークオフセットで直進性を高め、軽量化で安定性と持たせたうえ、「腰」の部分でバランスを取った動きを膝でニーパットを付けたトップチューブに伝えて制御して、視線を遠くに持っていく工夫で姿勢を安定させる仕組みのケルビムのバイクが50m完走してしまったのです。

ジャイロ制御の自転車は10m程度しか走ることが出来ず、意外な結末・・・・・という演出が成されていましたが、僕はおそらくこの自転車では完走できないだろうという確信が持って観ていました。
その自転車は確かに自立して安定する性能は確保できたのですが、ライダーが乗り込んでライダーの意識的な姿勢制御を加えると、電子制御のシステムと人間の制御のマッチングが取れてない・・・・というかどうもそういうロジックでソフトが組まれている形跡がなかったので、お互いの制御がぶつかって、人間が「不意な制御に不安を感じて」バランスを崩してしまうだろうと確信していました。
ライダーはおそらくバランス感覚の優れた競技系の方のようでしたが、反対にヨロヨロと危なく走る「近所のおばちゃん」レベルの制御能力に乏しい人に乗せた方が、自転車のシステムの方が優勢になり、最後まで走りきれるのではないかなと推察されました。
まあ僕の様な昭和の古い人間はハイテク最新制御のバイクより、「ケルビム」のビルダーの勘と経験で作られたバイクが勝利する方が面白かったのですが、この話は「人間と機械の関係」という部分で、特に最近流行の「自動運転」というう分で考えさせられる内容でもありました。

話が飛行機になりますが、昔名古屋空港で墜落事故が有りましたが、これは「オートパイロット」のシステムが人間の操作とぶつかってしまい、この機体のシステムは「人間は間違いを起こすので、システムの制御を優先する」という思想で作られたオートパイロットのシステムが原因で、パイロットの操縦を受け付けなくなり、制御不能状態になり墜落してしまったという事故でした。
この機体はヨーロッパの国際共同企業体の「エアバス」社製の機体で、実は同社の当時の電子制御の操縦システムを搭載していた機体は、同様のトラブルで墜落や重大アクシデントになった例がほかにもかなりあったそうです。

旅客機といえば世界最大のメーカーはアメリカの「ボーイング」社で、こちらの機体は実は操縦系統の電子制御はエアバス社に遅れていたのですが、それは技術的に劣っていたわけではなく、民間機としての安全運用を考慮して、電子制御に慎重だったからだと言われています。
実際完全電子制御の機体は、1979年に初飛行した、アメリカのロッキード(旧ジェネラルダイナミックス製)F16ファイティングファルコン戦闘機(電子制御に機体の実機配備はイスラエルのIAIクフィール戦闘機の方が早かった?)が世界で最初に実用化されていて、アメリカが先行していた技術でした。

ボーイング社の自動制御の思想はエアバス社とは違い「操縦はあくまで人間が主体性をもって行うもので、システムは人間のエラーをとらえてアシストする物」というものでした。
この「人間の主体性」という部分は大変重要で、あくまで主導権と判断は人間が行い、システムや制御は操縦のエラーを補正したり、危険を認識させる「裏方」であるというのが、本当の意味での安全につながるという重要な認識であり、航空機の世界では、多くの犠牲者をもって得られた「真実」だったわけです。

実際、オートパイロットが原因で、システムが間違った制御をし機種を上げてドンドン垂直に上昇してしまい、、最後に速度が落ちてあわや墜落!となった事例が有り、その時元戦闘機の操縦経験のあるパイロットが瞬時にオートパイロットを切って、「インメルマンターン」という戦闘機の機動テクニックで操縦して反転降下させて、辛くも墜落を免れたという事例もあるのです。

さてこの「自動運転」というもは、もはや我々の身近にも浸透してきていて、最近の自動車は軽自動車であっても「自動停止ブレーキ」とかいうものが搭載されるようになってきました。
確かにコンビニなどでよくある「ブレーキの踏み間違い」とか、自動車事故で一番多いとされる衝突事故をかなり防いでくれる優れものであって、その他、車線制御や自動パーキンググや色々な自動運転技術は、我々の安全を守ってくれるものと言えます。

所がこのシステム、実はメーカーや車種によって、システムの内容はそれぞれ違う物で、正直な話その機能の有効性や精度は「ピンからキリまである」というのが残念ながら現実であります。
何処のメーカのどの車種のシステムが「良い悪い」というお話は、「大人の世界」のレベルで何時ものようにお話しできないのですが(笑)、一つだけお教えさせられることがあるとすれば、「新しくて高くて複雑な物だから優れモノとは限らない」という事です。

まあ高いシステムは、たとえば複数の種類の高価なセンサーを備えて、恐らく計算速度の高い「CPU」を使用して複雑な制御をこなして、車体の多くのシステム「エンジン、ミッション、ミッション、ステアリング、ナビ」を複雑に連動させているため、どうしても高価なものに成っているのだと思います。
所が少ないセンサーで簡単なシステムでありながら、基本的なシステム構成の適正さと、綿密でリアルなテストの積み重ねによる制御の地道なアップデートで、人間の感性に合った自然な制御で正確な実現しているシステムも有るのです。

ここで最初の「凄ワザ!」の番組の内容の話につながると思うのですが、人間をアシストするシステムの有効性に関わる要素は、高い複雑化機械や、机の上で考えた高尚な理論よりも、如何に人間の有りようを正直に見つめて、寄り添っていくシステムを構築して、それを丹念に築き上げていくのが重要だという事を、ケルビムのバイクが教えてくれたのではないかと、僕個人は思います。

あっ、でもこのブログとしての結論は、此処まで壮大なお話を展開させておきながら、機会が有れば是非ケルビムさんにフレームオーダーしてみたいなという、番組の内容とは全く関係ない僕の勝手な希望と都合を書いて、終わらさせていただきます。
だって、此処は自転車ブログなんだもーん!(笑)。

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kanchi

制御系のシステムは設計思想が如実に現れますね。
自動車のABS、日本車は制動距離をできるだけ短くするのが優先で対象物を避けることは二の次。対して欧州車は制動距離を短くすることよりも、運転者が衝突回避のために操舵した行為をある程度生かしつつ減速しているようです。また車体の安定性を保つDSCも欧州車は4輪独立のABSを駆使して安定性を保てる試みを行ってから、最後に燃料カットに入りますが、日本車は早い段階で燃料カットのお仕置きモードに入りますよね。(最新では試していないので、過去の経験から記述しています。)
自分の意見・価値観と合わない設計思想のメカは欲しくないですよね。

by kanchi (2016-01-31 12:24) 

soraneko

kanchiさんへ

実際のところ、急に現れた障害物を目視して、ステアリングでの回避操作をしないドライバーがいるとは思えないんですよね。
結局仕様やテスト結果を「紙に書いてある数字」でしか判断することが出来ない上司や重役を納得させるために、単純な数字の「要件」をクリアすれば良い「だけ」に成ってしまっているのが日本に自動車メーカーの現実のようです。
非現実的な制御であっても、不具合を感じた実験部隊が提案しても、スルーされて商品化されてしまっているのかもしれないですね。

頭が良くて学歴が高い「だけ」で、自動車に対する理念や、経験のない技術者たちが、机で考えた屁理屈「だけ」を押し通して作られた自動車は、我々のように長い経験と、kanchiさんのように更に高い見識をもっておられるユーザーを満足させることは到底無理な相談なんだと思います。
by soraneko (2016-01-31 16:01) 

のっぽさん

凄技は完走した瞬間、大騒ぎしました。私もジャイロの制御に人間の動きが考慮されていないことに、勝ちは確信していました。
しかし、ケルビムオーナーとしては鼻高々です!( ^ω^ )
by のっぽさん (2016-02-03 20:59) 

soraneko

のっぽさんへ

あくまで番組ですから、編集などである程度の編集意図が無いとは言えないでしょうが、正直「胸がスッとした」結末でした。
恐らくケルビムオーナーの方々なら喜びも倍増であったと思いました。

でも、お子さんやお年寄りなや、軽い障害のある方々などが乗っても、安定して走ることができる自転車は必要性がありますよね。
ジオメトリィや重心位置の低下等、自転車本体の工夫も必要ですし、安定性をアシストする軽量なジャイロシステムも、将来の芽が出る可能性の有るものだと思います。
恐らく、相手チームの指導者の方は、失敗することが判っていて、若い学生に「良い経験」をさせたかったのかな?とも思いました。
若い方もあの涙を忘れずに、世の中に必要とされる物を生み出す情熱を持ち続ける技術者に成って欲しいと思いました。


by soraneko (2016-02-04 11:29) 

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